オメガ・スピードマスター 3570.50 オーバーホール
- それは一通のメールから始まりました。
「過去に湿気が入って風防が曇った経歴のあるスピードマスター・プロフェッショナルを所有しております。この度停止してしまったので、販売店を通じてメーカー修理を依頼したところ、大変に高額な見積額が提示されました。他の時計でのオーバーホール経験から、ある程度の費用がかかることは覚悟しておりますが、もう少し現実的な価格で修理できないかと思い、ご連絡させていただきました」とのメールをいただきました。
湿気が混入してから時間が経過した時計は、内部に湿気が留まったせいで、あちこちサビており、非常に高額な修理となる事が少なくありません。
そこで「可能であれば一度時計の文字盤を中心とした画像を添付してお送りください」と返信しました。
湿気が混入して時間が経過すると文字盤の塗装が傷むことも多いので、文字盤の状態が判ればおおよそのコンディションを把握することが出来ます。
この時、私の憶測では「メーカー修理で高額な提示をされたとすると、コンディションは相当悪いだろう。無理に修理をしたとしても完全な状態にすることは難しいので、よほどの思い入れがある時計でない限り、修理をお断りする方向へ誘導するのが、結局のところお客様にとっても良い結果になりそうだ」と判断しておりました。

その後送られてきたのが、この画像です。
「ん??一見したところ、文字盤のコンディションはそう悪くないなぁ・・・聞けば巻くと5〜6時間は動作するというし(その間、時間はほぼ正確)、プッシュボタンの固着も無いそう。これは一度現物を見て、裏蓋を開封してから判断してみても良いかな」
そう思ったので、一度時計を送ってもらうことになりました。
その後、現物が届きましたので、早速点検に入りました。
プッシュボタンチューブが腐食し、緑青が発生がしているので、これは交換となります。
心配なのは内部のムーブメントです。

「どれだけ錆びているやら・・」と恐る恐る開封したところ・・・
あれれ、意外と綺麗な状態のムーブメントが出てきました。
メーカー見積もりで「サビによる腐食が激しいので、ケース交換が必要」と診断されたそうなので、腐食の温床となるパッキンが入る溝を点検します。

確かにサビ/腐食はありますが、ケース交換が必須となる状態ではないと思います。
オーバーホール後の防水検査に合格しない可能性はありますが、スピードマスターの場合は元々3気圧防水ですので、防水というよりは防塵/防汗程度の機能と認識しないといけません。
仮に防水検査が不合格だった場合は、使用される方に状況を説明し、水気や汗には注意していただき、夏場は可能であれば別の時計の装着をおすすめする事にします。
この程度のケース腐食ならば、以上のように気を付ければ問題無く使用可能だと判断いたしました。
確かに湿気が混入した形跡があるものの、裏蓋を外して点検した限りでは、さほど重症とは思えない状態でした。
しかし、文字盤には湿気によって塗装が傷んだ形跡がありますし、これはきっと湿気が文字盤側に留まり、文字盤の裏側に酷いサビが発生しているに違いない、と判断いたしました。
そうでなければ、ケース交換を含むといっても、あんな高額な見積もりがメーカーから提示されるわけがありません。
通常、見積の段階では文字盤を外すところまでは行っていないのですが、お客様はよほどの金額でない限りはキャンセルされないであろう事が、最初のお電話で大体判りましたので、ここは思い切って文字盤を外してみる事にしました。

そうして出てきたのがこの画像です。
外周の枠には湿気による変色の痕跡がありましたが、部品交換が必須となるようなサビなどは無い・・
どういう事でしょう???
見積もり段階でこれ以上分解するわけにもいかないので、湿気混入時に錆びやすい2番歯車などの交換を見越した見積もりをする事にしました。
依頼された方からは、「メーカー見積で相当覚悟が出来ているので、少々高めになっても傷んでいる部品は早めに交換して、良い状態にしてほしい」との希望を伝えてもらっていました。
その結果出たのが以下の見積です。
●オーバーホール ¥36,750
●プッシュボタン交換×2 ¥8,400
●ゼンマイ交換 ¥3,990
●サビ取り/防錆加工¥3,150
●クロノ針3本色修正 ¥2,100
●巻き芯交換 ¥1,050
●風防交換 ¥4,675
●リューズ交換 ¥4,200
●3番歯車交換 ¥3,675
●2番歯車交換 ¥4,200
合計 ¥72,190(※修理完了時の価格です)
この見積結果をお伝えする際、「ちなみにメーカー見積はおいくらだったんでしょう?今後の参考までに、もし差支えなければ教えていただけるとありがたいです。」と伝えたところ、そのお答はなんと
「メーカー見積は(高価なケース交換を含みますが)27万円でした」とのこと。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
もちろんすぐに見積もり金額にご了承いただきましたので、作業に取り掛かったら何の問題も無くスムーズにオーバーホール/修復は完了しました。
何の問題も無かったどころか、予想に反して2番歯車の摩耗は発生しておらず、当然交換不要となったため、見積金額より¥4,200安く終了という結果と相成りました。
見積もり段階で「ケースの腐食の為、防水性能は回復しない可能性大です」とお伝えしたものの、規定の3気圧防水試験にも合格いたしました。
気密性に影響を与える、風防、プッシュボタン、リューズを全て交換したとはいえ、これは予想外の結果でした。
そうすると、メーカー見積もりの27万円というのは何だったんだろう??という事になってきます。
でも、メーカーが最初にそういった見積もりをするのには、やっぱりそれなりの理由があるんです。
このあたりの話は、また別の機会に。