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ロレックス エクスプローラーT オーバーホール 修理 (有)友輝  全国配送対応

ロレックス エクスプローラーT オーバーホール


  • ロレックス Ref.14270

    「新品購入から15年、それまで異常は無かったのに突然止まってしまった」というRef.14270エクスプローラーTの概算見積りのご依頼がありました。

    15年間オーバーホールはされていないものの、ずっと異常は無かったのに、突然停止したという事から、直接の原因は単純なゼンマイ切れによる停止と推測し、その他の部品の劣化や摩耗を考慮しても、やや余裕をもって¥38,000〜最大¥40,000程度の概算見積りをお伝えしました。

    その結果、配送で現物をお預かりしたのですが、裏蓋を開封して詳細な見積もりを進めるうちに、全く予想外の事実が発覚したのです。

    ロレックス 修理

    リューズで手巻きを行うと、“ガリガリ”という、何ともイヤな感触が伝わってきます。
    即座に「これはあの箇所がやられているな」と推測しました。

    1枚目の画像は裏蓋を開封したところですが、問題の箇所は自動巻きユニットを外すと視認可能となります。
    2枚目画像の赤丸で囲った箇所が、その問題の箇所です。

    ロレックス エクスプローラーT

    Ref.16013デイトジャストなど、カレンダー付のcal.3035は1988年まで、Ref.14270エクスプローラーTや、カレンダーの無いサブマリーナRef.14060に搭載されていたcal.3000は2000年まで生産されていましたが、長期間オーバーホールされていなかった場合、ここに問題を生じます。

    ロレックス オーバーホール

    問題の箇所を覆っている受け板を外すと、このような状態となっておりました。
    ネジ穴を中心として歯車が回転する軸となっているのですが、その軸が摩耗して、歯車が中心からズレてしまっているのが確認できます。

    これは10年以上オーバーホールを行わなかったために、オイル切れの状態であったにもかかわらず、リューズでゼンマイ手巻きを行って、半ば無理矢理動作させ続けたために生じたものと思われます。

    ロレックスの場合、オイルの変質もしくはオイル切れが発生しても、分単位/日での大幅な精度変化は現れにくいという特徴があります。

    高精度を追求した結果、部品各部の摩擦が非常に低く設計され、さらに高い工作精度で組み上げられているため、オイル切れの状態でも、ある程度の精度を保ったまま動作してしまうのです。

    オイル切れを起こしているロレックスの自覚症状としては、精度よりも動作持続時間が短くなる事が先に現れてきます。
    そのため、使用者が巻き上げ不足と勘違いしてリューズで手巻きを行ってしまい、歯車軸は減り続けるという悪循環に陥るのです。

    実際はゼンマイが巻き上がっている事が多いのですが、オイル切れで各部の摩擦抵抗が増しているので、ゼンマイのトルク(パワー)が少し落ちただけで歯車の回転が阻害されて停止してしまうのです。

    そして、手巻きによってフルパワーとなったゼンマイは、オイル切れを起こしている歯車軸に常に大きな圧力を与え、さらに摩耗が進行してゆくのです。

    ロレックス cal.3000

    このエクスプローラーTの場合、停止した直接の原因はゼンマイ切れが発生したためなのですが、もしゼンマイ切れが発生しないまま、軸をすり減らせながら手巻きにより無理矢理動作させ続けると、最終的に画像のような状態となります。

    見事に歯車が3つに割れています。
    これは、歯車軸がすり減ってきて、中心軸がずれて偏芯していたところに、手巻きという、時計部品にとっては非常に大きな力をかけ続けたため、最終的に歯車が耐え切れずに割れてしまったのです。

    こうなる前に、手巻きの感触が“ガリガリ”という、明らかに異常な感覚となるのですが、毎日徐々に感覚の変化が進行した場合は、自覚しにくいのかもしれません。

    決して悪意があるわけでは無く、このような状態であっても「全く異常が無かったが突然停止した」と症状を伝えるお客様もいらっしゃいますので、当社では“オーバーホールは異常が発生してからでもよい”とは、とても申し上げられないのです。

    ROLEX 修理

    無理な手巻き動作により磨耗してしまったホゾ(歯車軸)ですが、基盤プレートと一体成型となっており、ホゾだけを交換する事が出来ません。

    画像のプレートごと交換となるのですが、このプレート自体が非常に高価です。
    仮に当社でプレートを調達して交換するとなると、トータルの修理金額が日本ロレックスより高額となる事が予想されます。

    そこで、お客様には上記の説明を申し上げると共に、磨耗した軸の画像を添付して、最後は以下のようにお伝えいたしました。

    「今回は日本ロレックスにご依頼されて、ダメージを被った部品は全て交換し、次回4〜5年後、異常が発生する前の段階で当社に定期オーバーホールをご依頼くださるのが最良の策と思われます。」

    ところが、お客様からの返信は意外なもので、どうしても日本ロレックスには依頼したくない事情があるとの事でした。
    当社の前に日本ロレックスへ見積もり依頼したところ、「文字盤と針を交換しない限りオーバーホール受付は不可能」という回答があったそうです。

    高価な部品である文字盤と針の交換代金が加算されて、想定以上の金額となった事もありますが、それ以上に持ち主さんは記念の品である、このエクスプローラーTの文字盤と針が交換されて、まるで別の時計のようになってしまう事を避けたかったのだそうです。

    新たに交換される文字盤は、細かな部分ではありますが、一部のデザインが変更されているのと、夜光塗料の成分(色)が変化しているために、見た目の第一印象が変わってしまうのは避けられません。

    現在、日本ロレックスでは製造から35年以上経過した時計は、かなりのものがオーバーホール受付不可、1980〜1990年代のものでも文字盤に経年劣化の形跡が現れていると、文字盤と針交換まで行わないとオーバーホール受付不可、という対応となる事が多いそうです。

    メーカーとして、大変不誠実な対応にも思えますが、やはりそれなりの理由があるのでしょう。
    その理由については推測の域を出ないのと、長くなりますので別の機会に述べたいと思います。

    ここで問題となるのは、日本ロレックスが一部の技術公認店以外には部品を販売をせず、高価なプレートの入手は通常不可能なため、今回のように文字盤と針を交換したくないお客様にとっては「日本ロレックス以外に修理を依頼するお店/会社の選択の余地が無く、時計として動作させるには、不本意ながら文字盤と針を交換するしかない」事態となってしまう事なのです。

    このプレートは通常在庫しておらず、発注しても入荷時期の予測が出来ないうえに、たとえ入荷しても非常に高価な事が予想されるので、修復で対応する事にいたしました。

    重要なのは、作業に取り掛かる前に、お客様へ上記の現状を説明し、さらに「本来はメーカーでプレート交換が必要となる事例です。修復したとしても元の強度は確保しにくいので、今後は定期オーバーホールを欠かさず、オイル切れの状態では絶対に使用しない事、この部分に負担のかかる手巻きは極力控える事が重要です」と伝えておくことです。

    そうでないと、また同じような故障が起きてしまうのです。
    起きた不具合を修復するだけでなく、不具合が発生した原因を的確に把握し、修理後はその予防に努めていただくようにお伝えする、というのも修理技術のひとつとして重要であると考えております。

    ロレックス オーバーホール

    ロレックス エクスプローラーT

    具体的な作業の第一歩としては、摩耗してしまった軸部分を2枚目の画像のようにきれいに削り取ってしまいます。
    もうこれで後戻りは出来ません!

    プレートに穴が開いたら、次は軸の作製です。
    具体的には
    1. 歯車の入る部分に近い太さの真鍮棒を、旋盤で歯車穴より細く削り、中心に蓋プレート固定用のネジ穴を開ける。

    2. 基盤プレートへの固定は摩擦による叩き込みとなるので、軸の下部は磨耗した軸を削り取った基盤プレートの穴よりも細くする。
    という作業になりますが、ここで最も難しいのは2の作業です。

    作製した軸はボルトやナットで固定するわけではなく、叩き込み=摩擦による固定ですので、細く削りすぎたら、その時点で最初から作製し直す事になります。
    理想的な太さよりも1/10mm細ければ、ちょっと緩いどころではなく、完全にスカスカです。
    おおよそ1/20mmとなるのでしょうが、最後は仮り組みした際の感触で判断します。

    軸作製の過程の画像があれば良かったのですが、この先端を削った画像以外、撮影し忘れました・・

    ロレックス 修理

    ロレックス修理用旋盤

    ロレックス 修理用

    2,3枚目の画像は、この作業を行う旋盤セット+付属品のものです。
    途中の工程を撮影し忘れたので、いきなり軸が完成した画像となってしまいました。
    ROLEX オーバーホール

    この作業を行う上で重要なのは、軸を削り取る前に基盤も部品として必ず1つ確保しておく事です。
    作業は一発勝負ですから、万一うまくいかなかった場合、または数年後にやはり不具合が発生した場合に、その確保した部品を使用するという”保険”を掛けておくのです。
    入荷が大変不安定な部品ですので、簡単に確保分を使ってしまうと、その後に同様な事例があった場合に行き詰ってしまいますから。

    手巻きの感触もスムーズになって復活し、お伝えした注意点を守っていただいたおかげで、5年後のオーバーホールの際に検証しても、ほとんど軸の磨耗はありませんでした。

    この作業、実は10年前に行ったものでして、現在ではさらに進化した方法で修復を行っており、真鍮よりも確実に耐摩耗性に優れているベリリウム銅で軸を新規作成しております。

    ロレックス Ref.14270

    ロレックス cal.3000 修理

    真鍮製の時は金色でしたが、最近加工したプレートである2枚目の拡大画像ではベリリウム銅色となっているのが分かりますでしょうか?
    ベリリウム銅は小ロットでの材料入手が難しいうえに、切削粉が毒性をもっていることなどもあり、現在この軸の新規作成は外注しております。

    見積もりの際に、この軸加工が必要となる事を見極めてありますので、修理進行の連絡をいただいたら、直ちに外注加工先へプレートをお渡しします。
    修理品が順番待ちとなっているので、当社での作業着手は2週間ちょっと先となりますが、その間に外注先から軸が作成されて戻ってきました。

    そのため、お預かり期間は通常のオーバーホールと同じ1か月でした。
    こういったスムーズな進行は、オーバーホールも外注先に依頼しているところでは難しいかもしれません。

    これで軸の新規作成は無事終了です。
    この後は、ほとんど通常のオーバーホール作業と変わりません。

    今回の作業にかかった総費用は以下の通りです
    オーバーホール ¥26,250 
    歯車芯研磨 ¥4,675 
    ゼンマイ交換 ¥3,675 
    ホゾ(軸)新規作成 ¥14,700
    合計 ¥49,300(価格は修理完了時のものです)

    オイル切れのまま手巻きで無理に動作させていなければ、トータルでも¥34,600以下の費用でオーバーホールが可能であった事がわかります。