弾性があれば力が加わっても折れずに機能し、柔らかければ曲がったままになります。
本体ケースに組み込んでプッシュボタンで操作する限り、このバネにそうそう無理な力は物理的にかけられません。
という事は、このバネが規定以上に「硬かった」のがリセットレバーの固さを生み出していたのではないかと推測いたしました。
そこでこのバネを新品に交換してみたところ、いとも簡単にリセットの固さが解消されました。
たまたまこのバネの熱処理などがうまくいってなかったのか、何らかの後天的な理由によるものかはわかりませんが、結果論としてバネが硬かったのが原因だったようです。
これまで数多くのcal.861をオーバーホールしましたが、こんな事例はこの個体だけでしたので、非常に珍しい例であるのは間違いありません。
手巻きスピードマスターに搭載されているcal.861/1861系はリセットレバーとハンマーの位置(噛み合い)を変化させてリセットの固さを調整できるようになっているのですが、前回のオーバーホールの際、その調整では固さが解消できない事が判明していました。
当時消去法で考えていれば「残る原因はこのバネしかない」という結論に達し、試験的にバネを交換してみるという方法にたどり着けたのですが、顕微鏡で検査してもバネには外観面で異常が無いという時点で見逃してしまいました。
今では時計の異常原因を突き止める場合、私は様々な場面でこの消去法を多用しております。