お預かりした修理品をこちらの貸金庫に預けて2015年の業務は終了しました。
2010年のお正月、常駐警備員+赤外線式の警備システムを備え、人通りの絶えない繁華街に面していた銀座の有名時計店が数億円の盗難被害を被りました。
時計修理業界では当社のように貸金庫に預けているという話は聞いたことが無いのですが、新品の時計では無いからこそ盗難されてからでは遅いのです。
‘時計業界に物申す’ カテゴリーのアーカイブ
最近、何かと話題になる事も多い「~のランキングサイト」
利用者からの体験談や感想が口コミ形式で投稿されており、目的のサービスを利用する前に参考にしている方も多いようです。
価格.comや食べログに代表される口コミ/ランキングサイトですが、個人個人の感覚の差もありますので全ての方に100%あてはまるわけでは無く、情報を鵜呑みにすると現実の体験とのギャップを感じる事もあるようです。
時計の修理/オーバーホールの世界でも、「ロレックス オーバーホール」、「オメガ オーバーホール」などの用語で検索すると、ここ数年これらのランキングサイトが上位に表示されるようになってきました。
http://www.repairwtch.info/repair_shop/best3.html
ありがたい事に当社も掲載されておりまして、それについては何ら問題無いのですが、情報が古く現在では変更されてしまっている内容もありますので、出来れば訂正をお願いしたいのです。
しかし、訂正のお願いを申し出たくとも、管理人や連絡先は一切掲載されていません。
一体どこの誰がこのランキングを管理して順位付けしているのかでしょうか??
ご存知の方がいらっしゃいましたらご一報ください。
この3つのサイト、鋭い方なら内容にある共通点が存在する事がわかります。
出勤途中で見かけた、この自転車。
チェーンのサビも進行して固着しており、確実に道端に放置=廃棄されたものでしょう。
よく見ると、何年か前に、某携帯会社が他社からの乗り換えをすると、その特典として無料で配っていたキャンペーン品のようです。所詮無料のものですし、あまり大切にされないまま使用され、すぐに放置されたのではないでしょうか。
携帯のキャリア(会社)を変更しても、電話番号が変更されないMNPの実施以来、同じキャリアで長年使用し続けているユーザーが、すぐキャリアを乗り換える事を繰り返し、それに付随する特典の恩恵を度々受けているユーザーの「特典代」を負担している図式となっていると聞きました。
浮気しないで長年使用し続けているユーザーこそ、大切にされて然るべきかと思うのですが、そういった古い人情的な感情論は捨て、確実に短期で利益を出すには、乗り換えユーザーを優遇する必要があるのでしょう。
なかなか表面上は分かりにくい事が多いのですが、今の世の中「無料」の裏では、優良顧客がその割を食っている事例が数多くあると推測されます。
時計修理の業界では「見積もり無料」、「配送パック無料」といった宣伝が一般的になってきております。
「無料」を謳って、配送パックを送りまくりつつ、来店される方には、まずお店に足を運んでもらって、とりあえず何でも見積もりをしたほうが、トータルの受注件数は増えるのです。
しかし、事実上無料でも当社では「無料」の文字は一切使用しない事にしております。
見積もり無料にすると、「とりあえず見てもらって、高かったらやめよう」という方も増えるので、キャンセルとなった場合、見積もりにあたって費やされた時間、労力は、結局のところ、すんなりと見積り通りに修理依頼をされる、「優良顧客」様でカバーする必要があります。
さらに配送パックを無料にすると、ご依頼の意思が固まりきらないまま、配送パックを注文するためか、そのまま修理品を送ってこない方も、少数ですがいらっしゃいます。
この場合の配送パックの実費、送付費用もまた、約束通りに送付/ご依頼くださる方々のお支払い代金からカバーする事になるのです。
そのため、当社ではその流れには逆行し、現物を拝見する前の概算見積りを綿密に行う事により、ご依頼してくださる可能性が高いと思われるお客様に対して、配送パックをお送りする、またはご来店いただいて詳細な見積もりを行う事にしております。
はっきり言って面倒な過程と感じる方もいらっしゃるとは思いますが、当社では本当の意味での「優良顧客」様を、長い目で見て大事にしてゆきたいのです。
時計雑誌などにもたまに紹介されていますが、一般的にオーバーホールが完了すると、裏蓋の裏側に日付や修理者独自のサインを入れます。
よく目にするのが、画像のように油性マジックで線を引いた後、先の尖った針状の鉄棒で”ケガいて”文字を書き込む方法です。
ケガくのは100年前から行われている伝統的な方法で、日本ロレックスでも採用されている一般的な手法なのですが、私はどうしても抵抗があるのです。
近年になり、油性マジックを併用するようになって非常に浅くなったとはいえ、裏蓋にあまり美しいとはいえない”跡”を刻み込んでいるような気がしてならないのです。
私は、いつでも消す事ができる極細油性マジックで書き込むだけにしております。
サインをケガくと、超音波洗浄を施してもサインは消えず、これまでの履歴がわかるという利点があります。
しかし、メーカーなどで一貫したサインでないと正確な履歴はわからないことが多いですし、湿気や水分が混入した場合、オーバーホール直後であっても、その履歴は有効ではなくなりますので、履歴よりも個々の状態を目視、点検して把握するほうが有効であると考えております。
見えない内部であっても、これだけの消えない跡を刻み込むことには躊躇してしまいます。
私がちょっと神経質に感じすぎているだけなのかもしれませんが・・・
僭越ではございますが、ここは時計のユーザーである皆様に質問をさせていただき、忌憚の無いご意見をコメント欄にて、ご回答いただければと思います。
時計の裏蓋に刻み込む形式のサインにはユーザーとして抵抗を感じますか?それとも特に問題ないと感じるでしょうか?
私と反対意見の方も、”見えない部分ですし、キズとは違うものですから全く気にしませんよ”等々、本当に遠慮なくお答えくださると嬉しいです。
率直なユーザーの方々の考えを聞いてみたいものですから
—
そうしましたら、以下のようなコメントが寄せられました。
私が否定派という事で、比較的同調いただいたコメントが多かったとは思いますが、ケガかずに済むならそれに越したことは無さそうです。
●書いてもOKです(^^ゞ
私は自分で極細マジックでかいています~
●僕も書いてもOKですが、裏蓋がシースルーの場合どうなるのでしょう!?
●ケース素材が安価なもの(SUSの類)ならば気になりません。
ただ金やPtなどになると正直、入れてほしくないです。
貧乏性なもので( ̄▽ ̄;)
●僕は、極細油性マジックがいいですね!
けがいた場合、キズとして見てしまったら、気になりますからね
●私は、けがき針で書かれるのは嫌ですね。
ミクロに考えれば、キズなので、錆も入りやすいですよね。
むしろ修理明細がきちんと書けるようなログブックみたいなものが予め時計に添付されていることが望みです。
●まぁ職人の腕の良し悪しはこの際、置いておくとして、きちんとOVHを受けた証であるはずなのに、逆にそうは見えなくしている気がします。
と、言うことは、時計を預ける身としては、何十年後かの姿を想像して最良と思われる方法をとってくださいとしかお願いできないですね。
勝手な想像ですが、私が職人だったら他人のサインなんか見ません(要するに目の前にあるのブツが現実)が、実際のところどうなんですか?
●遺跡やお寺の落書きみたいですねぇ。
意識のレベルは様々でも、伝えたい何か、残したい何かがそこにはあるのだと思います。
オーナーさんを含めて、時計の裏ブタに意味も無く落書きをする人はいないと思います。
ケースのキズ取りの依頼はあっても、裏ブタのキズ取りまで依頼されるオーナーさんって、どのくらい居られるのでしょう。
そこら辺が答えじゃないのかなぁと思います
●自分は油性マジックならオッケーです
●これじゃ、ラグの傷なんか、気にしないのかなぁ。
●私はなんだかいやだな~。
でもシール貼るわけにもいかないでしょうし・・・
何かいい方法はないものですかね。
●小傷に見えるのは殆どサインなんですねー!?
コレは少々酷いと思います(汗)
●単純に、またOHに出した時は2行になるんですか、
親父の時計にも、数字のケガキがありましたが、
次が疑問です
●正直、あまり美しいとはいえません・・・
すっかり尻切れトンボになってしまった”香箱キズ”の記事ですが、
「回復処置編」忘れずに書きますよ。
まず、深いキズを根本的に取り去るのは難しいということをご理解ください。
それにはキズが無くなるまで表面を研磨し、仕上げ模様を施すことになりますが、
研磨=肉厚が薄くなることであり、あまり好ましい処置でないことと、ロレックスの
香箱のような仕上げ模様は、旋盤に大変高価なアタッチメントを取り付けて行う必要が
あり、容易に行うことが出来ないのです。
そこで、リューターにワイヤーブラシを取り付け、仕上げ目に沿って、”ごく軽く”
当てるようにして、”キズを目立たなく”するようにします。
1枚目と3枚目の画像が”ワイヤーブラシ使用前・使用後”になりますが、若干の違いが
お分かりになりますでしょうか?
あくまで若干、ですよ・・・
画像のように、力加減と当てる方向がわかっていれば、かなり使い込んだスチールブラシ
が最適ですが、慣れないうちは真鍮製のワイヤーブラシを使用するのが賢明でしょう。
さて、この度技術志向で無い方々にも喜んでもらえそうなネタ(修理品)が入って
きました。
週一ペースがやっとになりそうですが、私にとっても興味深い時計ですので、内容の
濃い記事になりそうです。
ご期待ください!
とある地方のお客様から、ロレックスのオーバーホール依頼がありました。
弊社では、遠方のお客様から時計を送っていただくにあたって、梱包配送キットを郵送し、送料着払い(弊社負担)の方法を採用しておりますので、この方法で送付していただきました。
届いた時計の外装を点検した段階でほぼ確信いたしましたが、念のため裏蓋を開けると、これまで私が見た事のないムーブメントが内蔵されていました。
しかし、真贋に関して私が断定する事は決していたしません。
どう考えてもロレックスで製造されたとは思えないものであったとしても、私はロレックス社から認定された鑑定士ではありませんので、それが”ロレックスで製造されていない”という事を証明することが出来ないのです。
お客様には”当社では修理お預かりできない時計”である旨を説明し、送料着払いで返送する事を了承していただきましたが、配送キットの送料、受け取りの際の着払い送料はこちらで負担した形となってしまい、何とも後味の悪い結果となりました。
お客様には、問い合わせの段階でおおよその修理金額を伝えていますので、その金額を支払っても修理したいと送ってこられたという事は、やはり”知らなかった”のだと思います。
修理をお断りするにあたって、お客様と電話で話したのですが、しばらくは事情が飲み込めずに戸惑っておられ、最初から”やっぱりな”という反応ではなかった事からも、ご存じなかったのでしょう。
ですので、この後味の悪さは、こういった時計を生み出した者達にぶつける事にいたしました。
”自分が買ってシャレで装着するから”といった理由で、海外でこういった時計を購入する方も多いと聞いています。
しかし、第3者の手に渡るうち、例え悪意が伴っていなかったとしても、どこかで今回のように困ってしまう人が生まれかねないのです。
また、こういった時計の代金は、概して反社会的な組織や活動の資金源と成り得る事が多いのも、購入者はほとんど意識されていないことと思います。
このブログを読んでいらっしゃる方にはいないと思いますが、そういった時計を所有されている方が居られましたら、あなたの決断でその時計を処分し、悪循環を断ち切ってくださいね。
今日は来店時間までお約束していただいたお客様が、閉店時間まで待ってもいらっしゃらず、ちょっと寂しい気分で帰宅しました。
わが社のHPを「大変信頼性が高いですね」と褒めてくださったような方ですので、きっと、急な用事で携帯電話の電波も届かないような場所へ行かなくちゃならなくなったんだろうな・・・うん、きっとそうに違いない、そう思うことにしようw
それはさておき、最近こんな本を読みました。
背表紙付近に見える、公共機関の分類用ラベルには突っ込まないで下さい。
日刊工業新聞社刊:「トコトンやさしい 機能めっきの本」です。
中でも、”硬い表面を得るめっき”と”磨耗しにくい表面を得るためのめっき”の項に興味をそそられました。
以前から、バルジュー7750の部品表面は鈍い光沢仕上げがされており、バネ性を保ちつつも長年の使用でも摺動部分が磨耗しないことから、1960年以前のアンティークなクロノとは異なる表面処理がされているのものと想像していましたが、どうやらその謎がこの本によって解けました。
硬い表面と磨耗しにくいを得るめっきは、”硬質クロムめっき”とのこと。
鈍い光沢が出るのがこのめっきの特長だそうで、7750のレバーやバネの表面には、このめっきがかけられている事が想像されます。
また、”表面に潤滑性を持たせるためのめっき”のところを読んだ際には、極力摩擦を少なくして手巻きの際に引っかからずに空回りさせる必要のある、ロレックスの赤い切替車に採用されているのではなかろうかと、あれこれ想像をめぐらす事が出来ました。
このあたりは、私もこれからまだまだ知識の蓄積や検証が必要です。
材料工学や生産技術に明るい方からは、「えっ!?時計屋さんって、そんな基本的なめっきの知識も無いの!?」と呆れられてしまうかもしれませんね。
こんな基礎的な事も知らず、”アンティーク時計はコストを度外視した材質を使っていたので、現行品より耐磨耗性に優れる”という雑誌の記事を、調味料の小袋に記されてる「こちら側のどこからでも切れます」という楽観的な文言と同じように、素直に信じた自分が恥ずかしくなりました・・・
”めっきが剥げちゃいましたね”と笑われないようになりたいものです。
画像はスピードマスターオートマ3510.50のブレス取り付け部分ですが、おかしな点があるのがわかりますでしょうか?
そうです、バネ棒を取り外す際に、縮める(狭める)ための工具を引っ掛ける段が無いタイプのバネ棒が装着されているんです。
これは10年前までのロレックスに代表される、ラグの外側までバネ棒用の穴が貫通しているタイプのケースにしか使用してはならないバネ棒です。
二枚目の画像でいうと、上が段付き、下が貫通タイプです。
で、これに何故憤慨しているかと申しますと、この貫通タイプを装着されると、ラグに穴が開いていないわけですからバネ棒を縮める事が出来ず、ブレスの取り外しが基本的に不可能になるんです!
この時計のオーナーさんがあまり深く考えずに、手許にあるバネ棒をご自分で装着してしまったのでしたら、まぁ、しょうがないということで、無理に取り外さずに作業するのですが、この貫通バネ棒、ロレックス以外にも1970年代以前の時計で多く使用されていた為、市井の古い時計店などに部品在庫として残っている事も多く、そこで装着されてしまう事が少なくないようなのです。
後から外せない事を知っていて、手元の在庫部品で安直に済ませたのだとしたら悪徳と言っても良いでしょうし、それすら知らずに、装着するのは簡単だからと、無思慮に装着していたとしたら、基本的な知識に問題があると言えます。
様々な形状のケース/ブレスを採用した時計が発売されている昨今、私だって全てのパターンを把握しているとは言いませんが、こういった基本的な認識や知識に欠けた時計店には、今すぐ看板を降ろしてもらいたいものです。
”勇退”や”引き際”という言葉があります。
先達の方々に対して生意気な事を言うようですが、感覚が衰えてきたら、お客様に迷惑をかけない様、後進に道を譲ると言う事も必要なのではないかと思います。
しかし、私の知っている年配の時計屋の店主さんの中には、齢70を超えても技術の交流会や勉強会に積極的に参加して、貪欲に知識を吸収し、私などまだまだ及ばない、尊敬すべき先達もいらっしゃる事を併せて明記しておきます。
近江神宮の境内には、天智天皇が作らせた漏刻台に倣った水時計が設置されています。
台座部分の銘盤には、この水時計が、1993年まで100年間に渡って日本におけるオメガの輸入代理店として、オメガのブランド力を国内に示したシイベルへグナー社から贈られたことが記されています。
ご存知のように、現在オメガの輸入/販売は、直営の日本法人であるスウォッチグループジャパンとなっています。
ここで私が感じた事は、「果たしてスウォッチグループはこういった活動をしているのだろうか?」という事です。
多くの人の目に触れる銘盤をつけて物を贈るのは、宣伝や節税といった意味合いも無いとはいえないでしょう。
しかし、宣伝効果といっても僅かなものでしょうし、オメガの販売に関して近江神宮が便宜を図るといったことも考えにくいのです。
これはやはり、日本の時計文化を語る上で欠かせない、近江神宮に対する敬意を表したものといえるのではないでしょうか。
外資系の商社とはいえ、幕末に日本で創設され、日本人の文化や習慣に親しみを持ち、日本に溶け込む努力をしていたシイベルヘグナーという企業の姿勢がこういったところから見て取れます。
Wikipediaで”日本シイベルへグナー”と検索してみてください。
シイベルに在籍していた年配の方、現在スウォッチにいる者、両方の知人がおりまして、その内情を耳にすることがありますが、時代の違いがあるとはいえ両社の企業姿勢には相当な違いがあると思います。
リーマン・ショック前まで、”オメガ 修理”と検索しても、オメガショップのHPにはなかなかたどり着けず、手間がかかって利幅も薄い修理はあまり積極的ではないのかとさえ思えました。
最近は新品の販売がさっぱりなせいか、かなり上位に表示されるようですが・・
これは個人的な感想ですが、銀座のハイエックセンター(スウォッチグルーブジャパン日本本社)の建物は、デザイン/見た目重視のせいかエレベーターの数が少なく、昇降に時間がかかってしょうがありません。
おそらく社内の基準時計は漏刻なんじゃなかろうかと・・・
はい、毒吐くのはこれくらいにして、次回からはGMTにもどります。