珍しい症例/cal.1861

by admin
2月 26 2013 年
2005年2月、親戚を通じてスピードマスターPro.(手巻)のオーバーホール依頼を引き受けました。

その際、所有者の方から「クロノグラフのリセットボタンが固いので、その調整も同時に出来ませんか?」との申し出もいただきました。

このスピードマスターPro.に使用されているムーブメントは、元々センター秒針と30分計の2レジスターで基本設計されていたところに、12時間計を後から半ば強引な設計で追加したという経緯がありますので、そのせいでリセットボタンはかなり固めの感触となっています。

12時間計が追加されたのは前身のcal.321時代に遡ります。
また、このパターンはバルジュー23と72についても同様で、同じくやや強引な設計となっておりますが、リセットレバーが凝った造りとなっているおかげで、cal.321~861のような固さではありません。

それはさておき、使用者がリセットを固く感じるのは主にオイル切れによるものである事が多いので、オーバーホールの際に注油を確実に行えば大丈夫だろう、と思っておりました。

ところが、オーバーホール後いくら注油箇所を確認し直してもプッシュボタンが固いのです。
顕微鏡で確認しても部品の摩耗や変形などは無く、ごくわずかにリセット関連のレバーの面取りなども施しましたが完全には解決しませんでした。

この時は「リセットボタンを押した回数もそれほど多くなく、部品同士のあたり=馴染みがまだ出ていないせいで固い可能性もあるので、これから使用していけば徐々に軽めの感触になるかもしれないです」と返答して、しばらくこのまま使用してもらう事にしました。

この時点でこれ以上の追及をしなかったのは、明らかな異常が見られない状況で、推測だけで部品の交換や加工をしてしまうと無駄な費用が掛かるだけでなく、根本的な原因が発見された際に復旧が大変困難になる場合があるからです。

ところが、それから8年が経過して、どうやら原因と思われる点が判明したのです。

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