日本ロレックス/公認技術店以外でオーバーホールされた履歴のあるRef.16800サブマリーナですが、ほぼ全てのネジ溝が歪み(=俗にネジが笑う、といいます)美しく装飾された表面にはいたるところに無数の傷がついています。
ピンセットやドライバー等の工具の状態だけでなく、作業者の技術そのものがお金をいただくレベルに達していない、もしくは衰えてしまった結果です。
内部が傷だらけだったロレックス・サブマリーナですが、外装の方もなかなかの状態です。
ベゼル逆回転防止用のクリックスプリングが通常のスチールで自作されていたためにサビが発生しており、折れる寸前でした。
さらに先端が整形されておらず、これでは回転ベゼル内側の山を削ってしまいます。
機能上影響はない点ですが、スプリングのセット位置と方向が工場出荷時とは全く違う位置にあります。
また、スプリングの元の形状やベゼルのセット方法を的確に把握しておらず何度も試行錯誤を繰り返したせいか、ガラス取付枠に無数の傷がついております。
こういう作業者に扱われた時計は徹底的に疑う必要があります。
文字盤には湿気による塗装変質が見受けられたので、ガラス固定枠を外してみたら案の定、防水/防湿用のパッキンが入っていませんでした・・
※下画像がパッキンの入った状態です。
過去の不適切な作業の際にパッキンを入れ忘れられ、空気中の湿気が侵入した結果、秒針のメッキやカレンダー枠周辺の塗装はこのように劣化しておりました。
こういったNG作業は往々にして時間が経過してから悪影響を及ぼすことが多いため非常に厄介です。
パッキンの入れ忘れは致命的なミスですが、防水テストを行っていればかなりの確度でミスを発見する事が可能です。防水検査が不合格となった場合は各種パッキンやリューズ等、不良個所を特定する事が必要です。
画像のような水圧式の防水検査機を所有している工房は多いのですが、検査過程が非常に面倒なため、修理品全ての防水検査を行わない所もあるようです。
防水検査を行っていれば、本体ケース/裏蓋にサビや変形が無いにもかかわらず検査不合格となった時点で、パッキンの劣化や入れ忘れを疑ってミスを発見する事が可能です。
高圧空気を使用する防水/気密検査機があれば、防水テストが容易に行えます。
ただ非常に高価な機器のため、個人経営や小規模な時計修理店には導入されていない事も多いようです。
こういった専用機器があれば”万が一”のパッキン入れ忘れを発見する事が可能です。
これが防水検査を省略したオーバーホールの結果です。
このデイトナはリューズチューブ部から湿気が混入してオイルを蒸発/変質させた状態で使用し続けたため、サビや部品の摩耗が発生しておりました。
前回のオーバーホールからわずか2年強だそうです。
適切な検査機で防水テストを行っていれば、このような事態は防げた可能性が高いのです。
当社の修理のうち、最も苦労するのが過去に適切でないオーバーホール作業を施された場合です。
ロレックスに適した防水検査機と自動洗浄機は大変高価です。