私はすかさず、ニコラ氏に”トゥールビヨンの調整で最も苦心するところはどこか?”と質問したところ、”ヒゲゼンマイが完全にバランスとれた状態でないと精度が悪化するだけでなく停止してしまうところだ”との回答がありました。
その他にも、回転する脱進器=キャリッジ部分のアガキ(遊び・ガタ)などはクロノメーター級の高精度時計よりコンマ1上の調整が必要だそうで、具体的には、テンプやアンクルのホゾ部分のアガキは○/100mmではなく、2~5/1000mm以内での調整になるんだそうです。
また、意外だったのは同じ大きさのテンプを使った時計に比べてゼンマイトルクが低いということです。
重いキャリッジを回転させるのに、半ば無理矢理トルクの強いゼンマイを使用するのだと思っていましたが、上記のように可能な限り抵抗を減らすと言う調整ですので、それもうなづけますね。
日本ではトゥールビヨンの修理はスイス送りになるので、こういった話はスイスでないと聞けません。
それにしても、ちょっとした衝撃でヒゲゼンマイは片寄るんですから、これだけ調整しても日本に到着する頃にはバランス狂っちゃうんだろうな・・・道理で精度はイマイチよくないというのも理解できます。
さて、話は前後しますが、この度スイスへ行くのに、どの時計をしてゆこうか迷いました。
スイス製の時計を着けてゆくのは、いかにも手前味噌・・・
学生時代にセントルイスでセントルイス・ブルースマーチを演奏した事があるのですが、それにも似た恥ずかしさを覚えるのではないかと思って避けることにしました。
ここは日本人としてのプライドを示すべく、知る限りスイスでは生産されなかった手巻・10振動という”ロードマーベル36000”を持ってゆくことにしました。
すると、ニコラ氏がこのロードマーベルをいたく気に入り、「日本ではいくら位で買えるんだい?」、「今お金を渡すから、日本で手に入れて送ってもらえないか?」と言うではありませんか!
私も、日本製の時計を気に入ってもらえたのが嬉しかったので、「この時計でよければ、日本のネットオークションで買える価格で譲るよ」と言っちゃいました。
もちろん、その場で話はまとまったのですが、彼はすかさず「ガンギ歯は何枚だ?」、「オイルは何を使っているんだ?」と質問攻め。
翌日、裏蓋を開けていくらでも観察できるでしょうに、いても立ってもいられなかったんでしょうね~。
本場の、しかも本職の方にこれだけ興味を持ってもらえる時計を製造していたんですから、SEIKOのレベルもそう低いものでは無かったんですよ。
この技術を一時期絶えさせてしまったのは、返す返すも残念です・・・
画像は譲る際、お別れにあたって撮影したロードマーベルとホテルのキーの画像。
後日ニコラ氏からメールが来たんですが、本場の地で快調に素早いビートを刻んでいるとのことでした!