本文へスキップ

オーバーホール 修理 (有)友輝 全国配送対応

シーマスター300・オートマチック2531.80


オメガ シーマスター 2513.80 オーバーホール

12年間使用して3分/日の遅れが出たシーマスター300・オートマチック2531.80ですが、必要となった修理メニューと、お客様に請求させていただいた金額は以下の通りです。

オーバーホール  ¥21,000
パッキン交換 ¥630
ゼンマイ交換 ¥2,100
ローターベアリング交換 ¥3,990
4番歯車交換 ¥1,575
リューズ ¥4,675
リューズチューブロウ付加工 ¥15,750
合計 ¥49,720(※修理完了時の価格です)

オーバーホール以外にも6点の部品交換/加工を行っておりますが、実はこの6点の部品交換を行わなくとも、通常の使用状況で保証期間の1年やそこいらは大きな問題無く稼働させる事が可能です。

あくまで仮定での話ですが、弊社が中古時計販売店から販売前の商品として、このシーマスターの納品前整備を依頼されたとしましょう。

その場合「販売価格−(仕入れ価格+整備費用)=利益」となる事から、よろしくない依頼主であるとしますと“出来る限り部品交換はせずに整備費用を抑えてほしい”との要望が通達される事も考えられます。

仮に言われるがままに部品交換を省略した場合、長い目で見て時計にはどのような影響があるか、個別の部品ごとに、その悪影響について詳しく紹介します。

このシーマスターで部品交換を極力省略するとしましたら¥4,200と比較的高価で、交換を行うための専用工具と、交換作業にある程度のテクニックを要するローターベアリングが筆頭に挙がります。
画像中心部に見える、いくつか穴のあいている部品がローターベアリングです。

オメガ シーマスター 修理

このローターベアリングは自動巻き回転錘の動作の要となる部品ですので、劣化しているにもかかわらず交換を省略しますと、当然自動巻き上げの効率が落ちるため、装着前にねじ込みリューズを解除して手巻きする事が必要となり、半ば無理矢理作動させる結果となります。

始末が悪いのは、交換しなくとも完全な停止や精度不良が発生するわけではないので、ユーザーから巻き上げ不足による持続時間不足や精度不良の申し出があったとしても、売った側が「手巻きして巻き上げ不足を補ってください」と言ってしまう事です。

その結果、使用の度にリューズロックを解除して手巻きを繰り返すことでリューズとケースにロウ付けされているリューズチューブのネジ山の摩耗が進行し、ネジ山がすり減りきった段階で両方とも交換が必要となり、ロウ付け加工を含めると¥15,750という高額の修理代がかかるのです。

また、リューズねじ込みがわずかでも効いている(=俗にいうバカになっていない)状態の場合は、当然チューブとリューズの交換は省略して見積もり提示すれば、一見相当安上がりな修理費用となります。

ひとまず安価な修理費用を提示して受注を優先させ、その後まもなくねじ込み不良になったとしても、追加費用を請求すれば良いという方法もあるかと思いますが、依頼者が業者では無く個人の方だとしましたら、心象は決して良くないでしょう。

当社では「最初に高額となる可能性も示唆し、点検の結果、部品交換不要で結果として安くなるならば、その方が結局お客様にとって有益である」という方針で見積をしております。

このシーマスター300・オートマチック2255.80の場合、ねじ込みリューズとチューブの寿命を延ばすためには、劣化したベアリングの交換を行い、極力自動巻きだけで動作を維持して手巻きする事を避けるのと、適切なオーバーホール作業と精度調整をきちんと行う事で、時刻調整のためのリューズ操作の頻度を下げる、といった点が重要となります。

非常に細い軸ですので、40倍まで拡大してもなかなか分かりにくいのですが、赤丸で囲んだ4番歯車の軸(上ホゾ)はかなり摩耗し、無数の筋目が刻み込まれています。

オメガ シーマスター 歯車

この4番歯車は英語名”second wheel”と言うように秒針が装着されて60秒で一回転し、中3針時計の中心に位置する歯車です。

時計の中心に位置する歯車は湿気の影響でオイルが変質しやすいようで、このシーマスターに搭載されているETA2892/cal.1120では、この歯車の赤丸で囲った軸が摩耗している事が多々あります。

時計の中心がどうして湿気の影響を受けやすいかは、以下の当社HPで解説しておりますので、ぜひご覧ください。 
→解説はこちら

サビと固着したオイルを除去した後、この画像のような状態の4番歯車をそのまま使用した場合でも、多少の回転ムラによるテンプの振り角落ちが発生するものの、致命的な精度不良や即・停止となる事はありません。

4番歯車になりますと、ゼンマイからの側圧があまりかからない為、ここまでの摩耗があっても「結構動いてしまう」のです。
回転軸や受け側の穴の摩耗や変形による影響が大きいのは、意外に香箱芯や2番歯車です。
それなら、少々の精度不良があっても4番歯車は交換せずに「クォーツじゃないんですから、機械式時計はそんなものです」で済ます事が出来てしまうのかもしれません。

販売前の商品を整備するときに限らず、直接お客様から修理品を預かった場合でも、切れていなければゼンマイは交換しない、という修理店も多いのは確かです。
まだ使えるゼンマイを交換するのは、無駄な部品代を転嫁することになる、という考えも勿論間違っていないのですが、当社では原則4年以上経過したゼンマイは交換することにしています。

一番の理由としては、ゼンマイの寿命予測は難しいため、ゼンマイ交換していない場合、オーバーホール直後に切れてしまう事もあり得ます。
そうなった場合は完全に停止するわけですから、オーバーホール/販売直後だったりしますと、当然ながらお客様の側からすれば「え、嘘でしょ」と思ってしまうのは当然ともいえます

大量発注などを行って仕入れれば、ゼンマイの価格って大したものではありませんから、こういったトラブルを防ぐために、当社の場合はゼンマイの供給に難が無い場合は、オーバーホールの際に必ずゼンマイ交換するようにしております

さらにゼンマイが切れた際の反動で、内部の歯車を損傷させる事もあります。
高価な歯車もありますから、こういった可能性を少しでも低くする、という意味合いもあります。


画像は自動巻き時計のゼンマイです。
音楽記号の「ト音記号」にそっくりなのは、ゼンマイがほどけてきてパワーが弱くなった際にも、最後まで巻いた直後に近い動力伝達を行うためであり、必然性があっての形状なのです。

オメガ ゼンマイ

最後は裏蓋のパッキンですが、最近は材質の進歩で通常3〜4年程度での劣化はほとんどなく、仮に再使用したとしても、しばらくは気密を保つことが可能です。
しかし、それからまた4〜5年使用されることを考慮しますと、変形や劣化により、徐々に気密が失われてゆく可能性があります。

内部機械の外周部に見える、黒い輪ゴム状のものが裏蓋パッキンです。


オメガ 2531.80 修理

役割、材質ともに水道蛇口のパッキンと同じようなものです。
年数が経過すると、水道のノブからポタポタと水がしたたり落ちるのを目撃した方も多いはずです。
これはパッキンの劣化によって起きる現象で、同じ理屈ですが、時計においては全く逆の現象である「水入り」が起きるのです。


オメガ シーマスター パッキン

また、水入りといった事態まで至らずとも、大気中の湿気が常に混入する事でオイルの劣化(酸化)や蒸発を引き起こし、その結果、各部品の摩耗や金属疲労による破断を招きます。

純正のパッキンでも大した金額ではありませんが、「塵(少額)も積もれば山となる」理論で、明らかに交換していないと思われる事例を頻繁に目にします。

このように、部品の交換を省略して、ひとまず「安く」オーバーホールする方法はいくらでもあります。
部品交換を抑えるような中途半端なオーバーホールを求められた場合、結局のところ使用者の損につながりますので、当社では最初の段階でお断りするようにしております。