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ロレックス オーバーホール 修理(有)友輝 全国配送対応

ロレックス デイトジャストRef.1601 オーバーホール

  • 当社では1990年代以降のロレックスもメーカーより安価にオーバーホールを行っております。
    1990年~現行ロレックスのオーバーホール/修理のページはこちら

    ロレックス デイトジャスト Ref.1601 ROLEX DATEJUST


    ロレックス デイトジャスト

    ロレックス デイトジャストRef.1601の初期型です。
    このRef.1601、1960年前後から約20年間生産されるというベストセラーとなったのですが、1964年ごろまでのタイプは、内外装ともに古き良き時代ともいえるアンティークロレックスの名残を各所にとどめています。

    正面画像からでも、菱形の針と中心に向かって先細となるインデックス、ベゼルのギザが細かいなど、頑強なオイスターケースの”質実剛健”な中に、柔らかなデザインが内包されています。

    修理を依頼された方の亡くなられたお父上の持ち物だったらしく、数十年不動のまま放置されていたようです。

    ただ、これまでに不適切な修理がされた履歴は無いようなので、防水等の使用制限は付くものの、実用品としての復活は可能だと判断いたしました。
    現行品のように部品の交換とオーバーホールだけで済む状態では無く、様々な加工や適切な処理が必要です。

    ロレックス裏蓋とケースのねじ込み部分にサビが発生しているらしく、専用オープナーを使用しても、すんなりとは開いてくれません。

    そのまま力任せに回そうとすると、ローレット(裏蓋の噛合いギザギザ)をナメてしまい、開蓋が益々困難な状況となってしまいます。

    まず、裏蓋とケースの隙間にCRC5-56を流し込みます。
    この際、スプレーで勢い良く”シュッー”とやってはいけません。
    ムーブメントは洗浄すれば大丈夫ですが、文字盤にまで液が回り込んで付着した場合、除去不可能なシミになる恐れがありますので、別な場所に吹いて出した5‐56液を、オイラー等で流し込みます。
    浸透力に優れているので、少量でOKです。

    そして一晩放置し、サビに浸透したところで再トライです。
    ついつい、オープナーは回す水平方向へ力を入れがちですが、私の経験で言うと、”垂直方向へ押す力7割、回す力3割”と言ったところでしょうか。
    この法則、自動車/バイクのDIY解説本に出ている”ネジをナメないドライバーの使い方”と同様です。

    時計用ドライバーの場合、材質や先端の形状にこだわる方が大変多く、もちろんこの点も重要なのですが、ネジの溝を歪めてしまう、いわゆる”ネジ笑い”を防止するには”押す力7割”の原則も重要となります。
    このあたりは、いつか項を改めて解説することにしましょう。

    そうしたら、開きました。
    やっぱりサビで固着していました。

    ロレックス cal.1560

    錆びないからステンレス(ステン=サビ、レス=〜しない)って言うんじゃないの?って思った方、ステンレスも錆びるんです。

    ベゼルを外した部分の画像をご覧ください。ベゼルはホワイトゴールドですので、これ100%ケースのサビです。

    ロレックス ケース サビ

    CRC5-56+市販されているロレックス専用のオープナーでも開かない場合はどうするか?

    オープナーのコマを被せたままハンマー等で衝撃を与える、アルコールランプで炙る、などの方法も考えられますが、ムーブメントや文字盤への影響を考慮すると、暴力団事務所の前で風船割りゲームをするのと同じくらいリスクが高いので控えましょう。

    こういった場合は潔く、”餅は餅屋に”ということで専門業者に依頼します。
    専門業者といっても、瀬戸内や三陸沿岸の牡蠣の殻剥きのようにロレックスの裏蓋開けの需要があるわけではありません。

    その業者さんは、30〜40年ほど前にはとある有名な国外メーカーのケース、ブレスを製造していた会社で、現在はケース/ブレスの仕上げが主な業務なのですが、サビ付いた裏蓋の開封も行ってくれます。

    さすがに企業秘密らしく詳しく教えてはもらえませんが、裏蓋開封に使用する工具、ノウハウともに我々のような修理業者が所有しているものとは異なるらしく、完全にさび付き、全く歯が立たなかったようなケースでさえ、ムーブメントに損傷を与えず、ねじ込みもナメてしまうこと無く開けてしまいます。

    了承を取っていないので、どこのメーカー/モデルのケース製造をしていたかは、ここで明らかには出来ないのですが、そのモデルのケース仕上げを依頼すると、速度・海・飛行の支配者になれそうなくらい仕上がりは抜群です。

    とりあえず、今回のケースはこちらの業者さんに依頼しなくとも無事に開きまして、画像でも判るとおり、ケースと裏蓋のかみ合わせ部分は、かなりサビが出ていますが、機械部品にはあまりサビが発生していないことがわかります。

    しかしここで安心は出来なかったのです。

    某テーマパークで長時間並んだ後、ようやくアトラクションの建物に入るところまで来たので「よし、もうすぐだ!」と喜び勇んだのも束の間、建物の中で巧みに隠されていた行列が連なっているのを見てしまった瞬間のごとく、これから次々に出てくる不具合箇所に打ちのめされる事になるのでした・・・

    ロレックス ムーブメント

    ムーブメントによってダメージを受ける箇所というのは、ほぼ決まっており、見積もりの際には”その機種独特の故障や磨耗箇所”について、特に注意を払わねばなりません。

    今回のRef.1601(cal.1560系)の場合は以下の通りです。

    @ローター芯の磨耗、ローター受け穴石の割れ
    A1番受けの香箱芯穴と香箱芯の磨耗
    B2番車下ホゾと地板ホゾ穴の磨耗
    C3番歯車出車芯の磨耗、曲がり
    Dカレンダーが引っかかり無くジャストチェンジし、枠からズレてないか

    ここで挙げた以外にも、数多くのチェック箇所があるのですが、全ての時計に共通する箇所ということもあり、ここでは割愛しますね。
    今後、修理の実例紹介で徐々に紹介してゆけると思います。

    さて、裏蓋が開いて私が真っ先にチェックしたのが、画像の赤丸箇所です。
    スレたようなキズが付いていますが、これはローターがガタつき、ここの箇所と接触したためです。

    このことから、ローター芯の磨耗か穴石の割れがあることがわかります。

    この時計の場合、自動巻きユニットの取り外しと分解をして、ローター穴石のチェックをし、1番受けとテンプ受けを外して磨耗をチェックしました。

    cal.1560系統はこれまでに数百個OHしてるので、かなり短い時間でここまで分解する事ができます。

    ここまで分解した状態にしてお客さんへ見せると、キャンセルしにくい状況を造り出したと感じさせてしまうかもしれないので、基本”戻した”状態にしてから見積もりを伝えます。(ここまでで、15分前後といったところでしょうか。)

    この時計の見積もり内訳は以下の通りです。

    ●オーバーホール
    ●2番車芯磨耗の為、交換または加工
    ※2番車は文字盤側の下ホゾが磨耗するので、完全分解しないと磨耗の見極めは不可能なのですが、使用状況から判断+高めの余裕持った見積もりということで、最初から交換を前提としておきます。
    ●3番歯車磨耗の為、ホゾ加工
    ●ローター芯交換
    ●天芯交換
    ●サビ除去、防錆加工

    以上が内装部品で、外装関係は
    ●風防交換
    ●チューブ交換
    ●文字盤補修が必要でした。

    ここまでの状態ですと、予想外の部品の追加が1〜2個出る場合もありますから、その旨お客さんにあらかじめ伝えておきます。

    かなり高額な修理代を提示することになりましたが、お客様には現在の時計の状況を詳しく説明し、全ての作業が必要な事を快諾していただけました。

    まずは折れた天芯の交換から始めます。
    画像でもわかる様に、上ホゾがポッキリ逝っちゃってます。cal.1570 テンプ

    以下の画像のように、鋼材から天芯を新規作成を行う事も可能ですが、このcal.1560系は、現在でも精度の高い補修用部品が入手可能ですので、時間とコストを天秤にかけまして、こちらを使用します。

    天芯 新規作成

    ちなみに、私が旋盤の技術に関して色々とお世話になっている方は、特殊な天芯でない限り、なんと10分足らず(!)で作成してしまいます。
    このような方なら新規で作成した方がいいのでしょうけどね・・・

    補修用天芯は下画像のサイズです。
    この位の小ささになりますと、隣にハイライトを置いても比較対照にはなりませんので、0.5mm目盛りの定規を置いて撮影してみました。

    天芯 サイズ

    このままでも、問題なく動作するのですが、新規作成途中のホゾと比べても、仕上げがやや粗いことがわかりますので、旋盤と”マチ切り”を使用して、より鏡面に近づくように加工します。

    次に古い天芯を安全に除去しないといけませんが、国産と違ってこれが意外に面倒なのです・・・

    まずは振り座を抜くことになりますが、私はこれまでに3種の工具を試してみました。
    ただ、振り座はあまり強くカシメられてはいませんので、振り石に触れないように気をつければ、ポンス台とタガネでも大丈夫です。
    振り座抜きに関しては、近いうちに”工具編”で紹介したいと思います。

    振り座が抜けたら、次は折れた天芯の除去になります。

    国産の時計は天輪と天芯が摩擦で嵌め込んであるだけなのですが、多くのスイス時計やロレックスの場合、淵を叩きカシメて、より確実に固定するようになっています。

    国産に慣れた修理者が、このことを知らないでポンス台などで天芯を押し出そうとすると、天輪のアミダ(アーム)を歪ませてしまうことがあります。

    このカシメ部分だけを旋盤で削り取るという方法が確実なのですが、わずかでも手元が狂えば天輪を削ることになりますので、旋盤の技術が確立されていたとしても、リスクが存在するのも確かです。

    そこで、私は画像のような天芯&振り座抜き工具を使用しています。

    天芯 抜き器

    しかし、これも工場、もしくは適切な方法でカシメられた天芯の場合にしか使えません。

    若干サイズの異なる天芯が天輪を圧迫するように装着されていたり、無理な叩き方でカシメられた天芯などは工具を傷めるだけでなく、テンワを歪ませてしまう可能性があるので、慎重に旋盤で削り取る方法を選択します。

    この時計の場合は、工場出荷時の天芯のようなので、この工具を使用しても大丈夫です。
    回転するターレットに様々なサイズの穴が開いていますので、天芯のツバ(最も幅のある部分)が無理なく入りながらも、出来るだけガタのない穴を選択します。

    そして、中空のガイドを差し入れ、穴の開いた専用タガネを正確に中心に来るようにセットします。
    さあ、果たして天芯は無事に抜けるのか!?

    天芯 テンワ

    ひとまず、画像のように無事抜けました!

    専用工具にセットして、ハンマーでタガネを叩いたのですが、カシメられているだけあって、叩いたときの最初の感触が、振り座など、摩擦で固定されている場合とは明らかに異質な、”固い”感触がします。

    通常、この”固い”感触が伝わった場合というのは力が逃げておらず、部品を曲げ、破損につながる場合が多いので、直ぐにハンマーを引き、タガネの大きさは適切か、接着剤などで不適切に固定されていないか、といったチェックをしなければなりません。

    この”違和感を感じる不快な固さ”というのは、一度体験して部品を破損したことがないと、なかなか会得する事が困難である、という厄介なものなんですよ・・・

    しかし今回の天芯の場合、この”固い”感触がして当然なのです。

    金色の天輪に対して、天芯が入る穴の周りに小さな銀色の”輪っか”があるのがわかりますでしょうか?

    実はこの”輪っか”が、旧天芯のカシメ部分なのです。
    カシメ部分は叩き潰してあって非常に薄いので、除去する場合は”叩き割る”のです。
    という訳なので、部品を破損してしまう状況と似た、”イヤ〜な”タガネの感触がするのも至極当然であるといえます。

    天芯に対してガタが出ないようにセットし、ポンス台よりもさらに確実にガイド付きタガネを打ち込んで天輪を痛めずに天芯を除去するためには、この工具が最適なのです。

    テンプ 振り座

    そして、新しい天芯をセットしてポンス台とタガネで圧入&カシメるのですが、この部分の説明が可能なほどクローズアップでデジカメ画像は撮れないのです。

    イラストレーターを駆使できれば、もっと詳細な解説が出来るのですけどねぇ・・
    これから、イラストレーターの技術習得も時計の技術同様頑張りたいものです!

    注意点としては、”絶対天輪のアミダ(腕)を叩かない”ようにすることです。
    そのために、中心穴の周辺だけカシメ部に当たり、端は天輪から逃げるようにする穴の開いた丸(ボウズ)タガネを使用します。
    (画像は仮止め用の平穴タガネになってます・・スイマセン)

    この丸タガネでカシメ部を叩きながら潰してゆくのですが、潰しきると”音”と”感触”が変わるのがわかります。

    なかなか文章で伝えるのが難しいのですが、音は”コッコッコ”から”キンキン”に変わり、もうカシメ部が潰れる事で衝撃が吸収できなくなるせいで、感触がやや固く感じられるようになります。

    振り座はタガネを使用せず、ピンセットで軽く押し込んだ段階で半分くらい入るくらいが適当です。

    これよりキツイと、タガネで押し込んだ際に振り座が割れますし、天芯のツバまで接する位ユルいと、テンプの往復運動に伴って、ズレてしまいます。

    また、振り座を押し込む際にはハンマーは使いません。
    タガネをピンセットの根元部分で叩くようにすると、ピンセットの”コシ”がショックアブソーバーの役目を果たし、過大な力が振り座にかかるのを防いでくれます。

    この位で押し込めるようでないと、明らかに天芯下部のテーパーがキツいので、振り座が割れてしまうのです。

    振り座がキツい場合は、テーパーを旋盤で削る事になります。
    cal.1560用として規格通りに仕上がっている天芯でも、微細なバリや、抜いた後僅かに拡がるであろう振り座の穴のサイズによって、そのままポン付けできるとは限らないのです。

    振り座が緩い場合はどうするのか?
    「シケラック、もしくは2液接着剤で止める」=これはNG模範解答、絶対やってはいけません!!

    もともと、穴のサイズが大きくてガタがあるのですから、正確に中心で固定出来無い場合がほとんどです。
    また、今後の修理において天芯/振り座の取り外しを大変困難にしてしまいます。
    裏蓋に記された自分のサインを後年の修理者に見られて、笑われるような修理はしたくないものです。

    振り座を根元まで押し込んでもガタが生じるような、”完全に合ってない天芯”ならば、振り座の穴に合わせて天芯を新規に作成することになるのですが、大抵はガタは無く、ピンセットで振り座の大ツバを挟んで回ってしまう程度なので、表からは見えにくい大ツバ部分を三角タガネで叩いてカシメるようにします。
    この実例も近々紹介できると思いますので、ご期待ください!

    天芯と振り座が付いたら、画像のような”振れ見”を使ってテンプを回転させ、天芯が曲がることなく正確にセットされているかどうかをチェックします。

    天芯 振れ見

    この際、筆で天輪にそっと触れる、ちり吹きで吹いて天輪を回転させるなどの方法がありますが、私は息で「フッ」と吹いて回転させます。

    何しろ、基本左手で振れ見を持ちますが、ちょっとでも手元が狂って振れ見を落としたりすると、即、天芯折れとなりますので、補助的に右手も添えておきたいのです。

    吐息で天輪の端を正確に狙って回転させるのは、知人に言わせるとかなり高度な方法らしいのですが、学生時代の管楽器吹奏で習得したテクニックを応用したせいか、自然とこの方法へ落ち着きました。

    吐息による湿気の付着を気にする方もおられるでしょうが、エアコンが効いて湿度を低く保っていれば、自然に乾燥するレベルです。
    むしろ湿度70%以上の自然大気中のほうが、よっぽど悪影響です。

    天芯と振り座の脱着に無理が無ければ、振れが発生する事はほとんどありません。
    振れは天芯ではなく、天輪がどれくれい振れる(ブレる)かで見極めます。

    次はテンプの片重りをチェックします。

    片重り見器として、画像のような工具がありますが、正直どこまで有用かっていうと、私は少々疑問を感じております。

    片重り検査器

    まず、この機器自体に完全な平行と水平が出ている事が前提になるのですが、造りを見る限り、日差10秒前後のクロノメーター級時計に対応するようには思えないのです・・・
    かなり偏った片重りであれば判るのですが、この懐中時計主流時代の名残ともいえる工具を使用して、1940年代には高精度な測定器を使用してバランス取りされていたと思われる、ロレックスの工場出荷段階と同じようにできるかと言うと、はっきり言って無理ではないでしょうか。

    天芯のセット後に確認の意味でチェックし、毎回同じ箇所が下に来るような明らかな片重りが無ければ、下手にチラネジ/チラ座などはいじくら無いほうが得策であると判断しています。

    過去に不適切な修理をされ、チラネジやチラ座のバランスが狂っている、合わない天芯が入れられたことがあり天輪が歪んだ、などの履歴がある場合は、この片重りチェックが不可欠となりますが、工場出荷時からいじられた形跡が無く、振れ見でチェックして振れ(ブレ)が無く天芯の交換が行えれば、そこで発生する僅かな片重りは、あまり神経質に追い求めなくとも、実用上問題ない精度が出ます。

    オーバーホール見積もりに”文字盤補修”とありましたが、通常文字盤は”極力触れない”のが大原則で、痛んだ文字盤を直す=全面リダンというのが一般的です。

    デイトジャスト 文字盤

    しかし、このRef.1601はお父上の形見ということもあり、出来る事ならこの文字盤を使い続けたい、とのご希望がありましたので、酷い剥離が発生したり、実用に影響のある状態になってしまうようであればリダンに踏み切る、という許可をいただき、文字盤補修にトライすることとなりました。

    風防の上から見積もりをした段階で、全面リダンせずに済みそうだという確信がありましたが、万が一の事を考えて、あらかじめリダンの可能性も示唆しておきます。
    事前に伝えておくのと事後承諾では、お客様に与える印象が全く変わりますからね。

    で、機械を取り出して直に文字盤を観察したのですが、この角質化した足の裏のような状態はいったい!?

    これは、文字盤塗装最上部のクリア塗装が劣化して剥離しているのです。
    見たところ、剥離しているのはクリア部分のみで、下層のブラック塗装と文字プリントは表面的な変色があるものの、まだ”生きている”と読みました。

    さて、どういう作業がベストなのでしょう?

    修理見積もりの際、風防の上から見た段階では、このクリア部分の上から、さらに新しい水性クリアをエアブラシで吹いて角質化を封じ込めてしまおうか、とも考えていました。

    しかし、出来るだけ”現状維持”といっても、正直ちょっと汚い印象です。
    機能的な面から見ても、新しいクリアを重ねた後、再び下からさらに劣化して剥離すれば元の木阿弥です。

    ためしに、ロディコで角質化したクリアをつついてみたところ、あっさりその部分だけが画像のように剥がれました。

    ロレックス 文字盤

    この調子とばかりに他の部分も慎重にロディコを押し付けてゆくと、いい具合にクリア層だけ剥離してくれるのです。

    下画像は全て剥離した後ですが、一番最初の画像と比べれば、かなり落ち着いてキレイになりました。
    画像より実物はもっと変化した印象を与えるのですが、撮影技術が伴いませんでした、悔しい!

    デイトジャスト Ref.1601 オーバーホール

    ともあれ、これなら外観面は喜んでもらえそうです。

    文字盤の目処がついたので、針と文字盤を外してみるとまたもや困難が・・・

    ロレックス カレンダー

    カレンダー盤の表面にまでサビが侵入しています。
    これも文字盤同様”触らぬ神に祟りなし”なのですが、カレンダー盤は可動するのです。
    このサビが引っかかり、ジャストチェンジを阻害する恐れがあります。

    そこで、万が一の場合の交換用カレンダー盤が予備として手元にあることを前提に、思い切った処置に踏み切ります。

    塗装が浮いていたり、文字にかすれがないようなら、サビよりプリントのほうが確実に密着していると判断できます。

    最初はあくまでソフトタッチで、消しゴムでこすってみます。
    徐々に力を加えてゆき、汚れが落ちなくなったな、と感じるあたりで止めます。

    で、”キレイになったのが、この画像です”と紹介したかったのですが、写真を撮り忘れました・・・
    全体に点々と付いたシミは完全に取ることは出来なかったのですが、3〜6にかけてのサビは除去できました。

    さらに、ジャストチェンジさせる上で、表面以上に大切な裏面は、心置きなくワイヤーブラシをセットしたリューターでサビを除去します。

    これで文字盤&カレンダー盤はOKです。

    次は動力部分の第一歩、香箱/ゼンマイ部分を見てゆきましょう。
    竹ピンセットの付け根部分で香箱芯を押し、香箱の蓋を外すと、こんな香箱芯が出てきました。

    ロレックス 香箱芯

    この部分は巻上げの際に摩擦になる部分ですので、サビがあるとローターの動きが阻害され、巻き上げ効率に影響するものと推測できます。

    チャックにくわえ、旋盤でサビ部分を除去するのですが、サビによって面に凸凹が発生しているので、平滑面の研磨に適したバイトが最適とは言い難いのです。

    サビの除去/研磨は、ポリエステルフィルムに研磨剤が塗布された”ラッピングフィルム”を真鍮材に貼り付けて使用しています。
    このラッピングフィルムは#600〜#15000まで用意されているので、サビ取りから研磨まで対応します。

    最後に、先端をマイナスドライバー状に削った楊枝の先にウェノール等のペースト状研磨剤を塗布して仕上げれば、よりカンペキです。

    ご覧のように、使用前→使用後の如くキレイになりました。

    cal.1560 香箱芯cal.1570 香箱芯

    香箱の内部は10年以上前に塗布されたと思われるモリブテングリスが硬化しており、この状態ですとゼンマイがほどける際に潤滑どころか逆に抵抗となり、充分なトルクが伝わらずテンプの振り角が不足します。

    ロレックス ゼンマイ

    この時計の場合は、長年使用されずに保管されていたためにグリスが硬化したのですが、「オーバーホール済」として購入したものの、すぐにトラブルが発生し、持ち込まれた時計の香箱を分解すると、グリスが硬化しており、香箱内の分解/洗浄/注油を行っていない事が明らかにわかるものが少なくありません。

    香箱のOHを行わなくとも、テンプの振り角が数十度不足したり、歩度がやや不安定になる程度で、停止や大幅な精度不良と言ったトラブルにはつながらない場合が多いのですが、理想的な状態には程遠いことがお分かりいただけるでしょうか。

    さらに、長期的に見るとゼンマイのスリッピングアタッチメントが香箱の内側を削ってゆきます。
    最終的には、スリップのタイミングが極めて早くなって極端に持続時間が短くなったり、トルク不足からくる大幅な振り角不足で、精度が乱れます。
    内側の削れた香箱は、スリッピングアタッチメントを曲げてテンションを増やしたり、内側の溝をリューターで削るなどの方法がありますが、いずれも場当たり、暫定的な対処でしかなく、根本的には香箱の交換となります。

    こんなことは、香箱に限ったことではありません。
    相場よりずっと安価なオーバーホール作業では当たり前のように省略される箇所です。

    cal.1570 2番歯車

    この2番車下ホゾ、旋盤で削ったのではありませんよ。
    信じられないかもしれませんが、オイルが切れたのに長期間使用し続けたために、ここまで削れてしまったのです。
    その証拠に、分解前にゼンマイを巻いてやると10時間程度稼動しました。
    推測するに、持ち主の方は一日に何度か手巻きすることによって、なかば無理やり動かし続けたため、ここまでの磨耗を招いたものと思われます。

    これを見ても判るように、ここまでの事例は珍しいものの、ロービートの時計でも確実に歯車軸は磨耗します。
    ”ハイビートの時計はロービート(アンティーク)と比べて軸の磨耗が激しい”と仰っている方がおられますが、アンティークも自動巻で常にゼンマイのトルクが100%に近い状態にあるような場合だと、同じように磨耗するんですよ。

    おそらく、その方のお店で売っておられるアンティーク時計は、大変程度の良いものばかりなので、ここまで磨耗の進んだ歯車軸はご覧になったことが無いということなのでしょうけどね。
    アンティーク時計を売らんがために、ハイビート時計の欠点をPRするという目的では無いと信じましょう。

    ロービートは日差がある程度出つつも、騙し騙し動き続けるが、ハイビートは軸の磨耗が進んでも停止する直前まで高い精度を保ち、ある時プッツリと停止する、という傾向にあることを、ここに記しておきます。

    この場合、修理の進め方として、「当社は独自のルートを持っておりロレックスの部品も問題なく入手できます」ということで解決しそうですが、基盤となる地板のホゾ穴も磨耗しており、2番車だけを交換したとしても、スキマとガタが生じます。

    この場合は2番車を交換するよりも、軸と地板両方に加工を施すほうが得策と考えております。

    デイトジャスト 2番歯車

    まずは旋盤を使用して、磨耗したホゾを可能な限り平滑になるようバイトで切削し、マチ切り、ラッピングフィルム、楊枝+研磨剤を駆使し、鏡面に近くなるまで磨き仕上げを施します。(赤丸部分を切削、磨き仕上げしました)

    しかし、ここで注意したいのが”鏡面仕上げにするのが目的ではない”ということです。
    秒カナを通すために中空になっている軸を設計時の数値より細くするのですから、可能な限り削らないほうが良いのは確かです。

    鏡面にこだわるあまり、強度が不足するまで削りすぎてしまっては本末転倒です。

    脱進器関係ならご法度ですが、輪列に限ると、ごく薄くなら筋目が残るような場合でも日常使用において問題無く動作が保証できる場合が多いのです。

    部品の供給が絶たれた時計の修理の場合、新品時の完全無欠な状態に戻すのが難しいことも多々あります。

    不本意ながら”妥協点”を見出すことが必要となってくることをご理解いただければ幸いです。

    次は拡がってしまった地板ホゾ穴の加工になります。
    地板は真鍮で出来ているため、拡がった穴をタガネで叩いて延ばすという、”穴を狭める(詰める)”方法を採る修理者も多いのですが、当然叩いた部分が薄くなりますし、一部分を詰めるので、完全な真円には程遠いものとなります。
    そういった加工後でも、しばらくは問題なく動作するのですが、当然薄い断面では再度磨耗しやすくなるため、その場しのぎの加工と言わざるをえません。

    また、真円でない場合も、とりあえず動作はするようになりますが、抵抗が増えてテンプの振り角が不足したり、回転ムラによって振り角が時間によってバラつくようになります。

    そこで、真鍮製の穴金を打ち込む作業が必要となります。

    偏磨耗した地板のホゾ穴を、真円になる必要最小限の大きさにまで拡げ、その穴の径よりわずかに大きい穴金を旋盤で作成します。

    この穴金は摩擦で固定されるため、拡げる穴は大きすぎても小さすぎてもいけません。

    もし穴径が穴金より0.1mm大きかったとしたら、完全に抜け落ちますので大失敗です。

    その差は0.03〜0.05mmといったところでしょうか。
    しかし、マイクロメーターの数値よりも、穴金をあてがってみて、穴の深さの1/3ほどにハマるかどうかが見極めのポイントになります。

    画像は穴金を作成した時点の撮影で、まだ地板のホゾ穴を真円に拡げていないために、穴金がハマる大きさよりは、かなり小さい穴径になってます。

    ロレックス 修理

    この穴金をポンス台で打ち込むと、以下の画像のようになります。

    穴金 ロレックス

    そして、鏡面仕上げを施した2番車カナの径に合わせて、穴金の中心穴がズレないように自作の平キリ(ドリル)で拡げてゆきます。

    小学生時代の計算ドリルは大嫌いでしたが、今ではドリルで計算どおりに穴が開いてくれると嬉しくて快感すらおぼえます。

    錐(キリ)で穴を拡げる加工は、中心からわずかにズレただけでも歯車の正確な回転を妨げますので、正確に中心にそって均一な径の穴を開ける必要があります。

    一般的なツイストドリルですと、わずかなブレによって、穴の上端と下端で穴の大きさに差が生じる(ドリルの根元に近い上端の穴が拡がりがち)場合があるので、平キリのほうが向いているのです。

    ツイストドリルで正確な径の穴を開ける方もおられるので、技術の問題かも・・・

    ロレックス修理用精密ドリル

    画像で形状の違いがお分かりいただけるでしょうか?(上=平キリ、下=ツイスト)平キリは先端でのみ切削を行うので、均一な径で掘り進む事ができるのです。
    ちなみに、この2つのドリルの直径は両方とも0.4mmです。

    平キリでホゾ穴を開ければ動作するようになりますが、見えない部分にもこだわって手を抜かず、完全な修復を目指すのに加え、後の修理人に見られて恥ずかしくない加工をしときたいじゃありませんか。

    そして以下の画像のように、地板ごと面盤チャックにくわえ、地板と穴金の境目と、穴の淵をバイトで注意深く”さらって”やります。
    さらう=ならすに近く、ようするに皮一枚だけ削ってやるという意味です。

    ロレックス 修理 旋盤

    穴金を打ち込み、2番車のホゾ穴を開け、地板と穴金をツライチ(面一)にしたのが下の画像です。(10時近辺に1つ切りクズが残ったまま撮影してしまいました・・・)

    cal.1570 ブッシュ

    後期型cal.1570の場合、この加工をしないで素直に2番車を交換したほうがよい場合もあります。
    この説明はまた回を改めて。

    最後に、削った楊枝にウェノールなどの研磨剤をつけてリューターにくわえ、穴の側面と上下淵を鏡面に近づくように研磨します。

    この最後の研磨の出来いかんで、振り角が10度くらいは違ってきますので、ここはしつこく&ねちっこく迫ります!

    ちょっと専門的な作業の紹介が続いたので、次はちょっとわかりやすいところを紹介しましょう。

    画像は輪列受けですが、中心からガンギ受石のあたりにかけて、黒く波打ったような模様が付着しているのがお分かりいただけますでしょうか。

    cal.1570 輪列受

    これは、過去の作業者の指紋跡です。
    洗浄後に素手で表面に触れたことが原因であることは明らかなのですが、触れた直後ですと目立つ跡が付かないので、そのままケーシングしてしまったのでしょう。

    しかし、年数が経つにつれ腐食/変色し、このような痕跡となって露呈します。
    素手で触れた部分は、ロデイコやベンジンを含ませた綿棒で、忘れず確実にふき取っておくようにします。

    超音波洗浄をかけても完全に取り去るのは難しいので、仕上げ目に沿って”メッキを傷めない程度にごく軽く”リューター+ワイヤーブラシをかけます。

    結果は、組みあがった際の画像でお見せします。

    長い上ホゾの先に出車が付く三番歯車です。
    ここも汚れ、サビが付着していますので、2番車と同様に旋盤+ラッピングフィルムで磨き上げます。

    cal.1570 3番歯車



    Ref.1601 3番歯車

    と同時に、旋盤で回転させることによってホゾの振れをチェックします。
    振れる=ホゾの曲がりということになります。

    この3番車の長いホゾは、過去の修理において誤った出車の取り外し方をされたために、曲がりが生じている事が少なくありません。
    もしホゾが振れていて曲がりが確認できたとしても、この時点での修正は避けたほうがよいでしょう。
    曲がっているポイントが根元では無く中間あたりなので、旋盤にくわえた状態でホゾの曲げ修正がなかなか難しいのです。

    何より、この状態ではホゾの焼き戻しを行っていないと、ホゾが折れてしまう危険性があります。

    今回、ホゾの曲がりは確認できなかったので、出車の正しい外し方(日本ロレックス直伝!)とホゾの修正方法(自分オリジナル)は近々別記事で紹介することにしましょう。

    ロレックス リューズ

    デイトジャストのリューズ(600-0)を分解したところです。

    こういった消耗品は交換するのがベストなのですが、真っ先に磨耗するネジ山が残っており、年式の割には状態が良好で、過去に交換履歴があるものと判断しました。
    巻芯の入る部分の六角のヤマもナメておらず、このまま使用しても、しばらくの間は問題ないと思われます。

    でも”レストア”と謳うからには、ちょっと整備らしきものを施してやりましょう。

    軽くアルコールランプで炙ってやった後、二番目に写っているパイプ部分を四つ割れにくわえて、ヘッド部分をねじってやると、比較的簡単に外れてくれます。

    ヘッド部分は真鍮製なので緑青が発生していることがあります。
    水で20〜30%に薄めたアンモニア溶液に浸すと、緑青がキレイに除去できます。

    その後、分解した状態で超音波洗浄し、内部の汚れを取り除きます。
    パイプ内部に汚れがたまったままだと、スプリングの動きを阻害し、リューズが空回りする状態のままになってしまいます。
    組み立ての際はネジロックを忘れずに塗布するようにします。

    お次は磨耗したローター芯の交換です。

    ローターがガタついていていると、即”ローター芯の磨耗だ!”と判断してしまいがちですが、このcal.1560系の場合、ローター穴石(入手困難)が割れてガタが発生している場合がありますので、見積もりの際は注意が必要です。

    ローター芯は、外周部分をカシメ=叩き潰すことによって固定されています。
    天芯の場合と同じ理屈なのですが、それほどデリケートな部分ではないので、取り外す際はこのカシメ部分をポンス台で半ば強制的に打ち抜いてやります。

    この際、台座部分のローター芯が逃げる穴が大きすぎるとローターが歪みますので注意が必要です。

    ロレックス ローター芯

    ローター芯の外周が歯車のように潰れているのがわかりますでしょうか?
    ちょっとピンボケですが、ローター本体にも跡が残っています。

    ローター芯の交換は、画像のような専用タガネを用いて、ローター芯の薄い淵を叩き潰すことによって、ローター本体にカシメて固定します。

    ロレックス ローター芯 工具

    どう見てもタガネ先端は材料から切削途中のピラーホイールにしか見えませんが、この形状にはちゃんと理由があるのです。

    磨耗したローター芯を除去するためにカシメ部を打ち抜くと、当然その部分は拡がります。

    新しいローター芯をカシメる場合は、その拡がった部分をカシメタガネの凹んだ部分に重ねて逃がし、旧ローター芯のカシメで叩いていない部分をカシメ直さないと、ローターがきちんと固定できなくなります。

    このことから考察すると、ローター芯の交換は2回が限度で、3回目からはローター本体の交換が必要ということになります。

    というわけで、新しいローター芯を仮セットしてみると、ガタが結構あります・・・
    芯を打ち抜いたローターをよく観察すると、カシメ痕跡から既に2回ローター芯交換されているようなのです(泣)

    高価な高価なローター交換になるのでしょうか!?

    ガタが大きいような印象を抱かせる書き方だったかもしれないので、皆様をちょっと考え込ませてしまったかもしれません。

    実寸で香箱芯のアガキ程度のガタなのですが、そのままカシメるにはちょっと拡がりすぎてしまっているということなのです。

    輪列では最良の方法とはなり難い”穴詰め”ですが、ローター芯ではそこまでの精度も必要とされず、ローターが固定できるかどうかが一番のポイントとなりますので、今回はこの方法を採用します。

    マイナスドライバー状に加工したタガネを用いて、穴の周りを画像のように6ヶ所叩いて狭めてやりました。

    cal.1570 ローター芯

    その後、ポンス台にセットして前述の専用タガネでローター芯をカシメるのですが、最初の位置決めセット段階が重要で、この段階でローター本体、ローター芯、タガネがわずかでもズレたままハンマーで叩いたりすると、修正不可能なほどローター本体がゆがんでしまい、高価な高価なローター交換の憂き目に逢います。

    今回使用した加工タガネは、表面にサビが発生し、先端が変形したジャンク扱いのタガネを加工したものです。

    精密作業用とは別に、ちょっと荒っぽい作業に使用したり、先をオリジナルに加工するジャンクタガネ(出来ればポンス台も)を用意しておくと、何かと便利です。

    ムーブメントは注油・組立を残すのみとなりましたので、錆びの激しかったケースの処理といきましょう。

    まずは、真鍮のワイヤーブラシでサビをひたすらこそぎ落とします。
    画像はケースと裏蓋の噛み合わせ部分ですが、サビを落としたことでステンレスに凹みが発生していることがわかります。

    ロレックス ケース サビ

    これでは、たとえ裏蓋パッキンを交換したとしても、隙間が埋めきれるはずも無く、防水性能が失われてしまうことは一目瞭然です。

    その他、風防の経年劣化、風防に圧力を与えて固定する役割のベゼルが伸びて、規定のテンションがかからなくなる、ねじ込みリューズとケース側の雌ネジチューブ劣化、ガラスの場合は高価なサファイヤガラスとセットで無いと部品の出ないテフロン樹脂パッキンの劣化など、ケースのサビが発生していなくとも、これらのうちどれか一つでも当てはまる場合は、即=防水不良となります。

    「裏蓋パッキンを交換すれば防水を保てる」と思っておられる方も多いのですが、このケースの錆びを落とした後の画像や、上記の部品の劣化について解説すると、経年劣化で非防水となってしまうことも、すぐに理解していただけます。

    こういった解説は、裏蓋を開けてケースのサビを確認した見積もりの段階で、「以上のような理由で非防水となる可能性もありますが、水気や汗を回避して使っていただくうえでは、動作を保証します。それでもよろしければOHいたしますが」と事前に伝えることが重要です。

    OH後に「テストの結果、非防水です」と伝えられたら、”それなら新しいもの購入したのに・・・”という気持ちを抱かせてしまうかもしれませんしね。

    さらに、多くのメーカーは出荷段階でのスペックが保証できない限り、原則オーバーホールを受け付けないので、高価なケース交換前提での見積もりとなり、ケースの在庫が無い場合は、”部品在庫なし、受付不可”ということになるようです。

    ジャンクケースで実験した結果、隙間という隙間に2液エポキシを注入して、5気圧程度の防水テストに合格させることは可能なのですが、あくまで検査時点で防水が保たれているということです。
    ねじ込み裏蓋部分のように大きなトルクがかかる部分でエポキシの劣化、剥離が起こる可能性は否定できませんので、その後の防水保証は出来ないのが現実です。

    いわば”その場しのぎ”で防水を謳うよりは、「古い時計で、防水性能以外にも劣化の始まっている部品がありますので、出来るだけ水気や汗を避け、丁寧に使用してあげてください」と伝えることにしています。

    防水に関しては語り足りない事も多いのですが、長くなってしまいますので、またの機会に。

    これまで、どの人にたずねてもケースのサビはこすり落とすだけで、その後の防錆処理を行っている人はいらっしゃいませんでした。

    一度錆びてしまったら、ステンレスといえども再びサビが発生しやすくなることは、ステンレスが空気に触れ続けることで平滑な表面に酸化膜を形成しサビを防ぐ特性や、過去の修理でサビを除去した形跡があるのに、同じ部分に新たなサビが見受けられることを理解していれば、自ずと想像することができます。

    時計修理業界で誰も実行している人がいないのであれば、私がパイオニアとなるしかありません。

    一般的に防錆処理というと、
    1.塗料を塗る
    2.メッキする
    ということになりますが、1.はねじ込み部分のため、塗料は剥離してしまうでしょう。
    2.はこれだけ表面が荒れていると、メッキはのりません。

    そこで、最良の方法であるのかはわかりませんが、何もしないより良いと信じて、二輪業界ではサビ取り&防錆処理に定評ある(という宣伝文句)薬剤を試してみました。

    ロレックス サビ除去

    その名も”花咲かG!”

    パッケージだけを見れば、その昔、少年漫画の裏表紙の内側(最終目次ページの次)に掲載されていた、”NASAが〜”と書いてあれば、それだけで信頼性が飛躍的にアップしていた商品(例:アポロエクササイザー)と比べても、怪しさはこちらが上です。

    この”花咲かG”を試そうと思った理由としては、「3ミクロンの皮膜を形成し、防錆効果を発揮する」という効能があるとのことからでした。

    デイトジャスト サビ

    多くのサビ取り剤はサビを落とす効果は高いのですが、防錆処理効果が無いために、同じ箇所から再びサビが発生することも多く、防錆専用剤も塗布した箇所がベタつくなど、時計には不向きであることが難点でしたからね。

    ”花咲かG”をサビを落とした後凸凹になった面に薄く塗布し、ドライヤーやバンド/ケースを洗浄した後に使う乾燥機で強制乾燥します。
    そうすると表面が灰白色となり、確かに皮膜が形成されているのがわかります。

    実は修理品で使う前に、自分の時計で1年ほど花咲かGを試したのですが、顕著なサビの再発やムーブメントへの悪影響は認められず、防錆効果はあるようだと判断して、今後も使い続けることにしました。

    よく健康食品を「ガンに効果がある」と断言して捕まってる人がいますので、こういう表現は慎重にしなくてはなりません。

    ひとまず、これで機械部分のオーバーホールは完了です。
    自動巻ユニットを外したほうが写真写りが良いので、その画像を載せてみました。

    Ref.1601 ムーブメント

    画像でもわかりますが、テンプの振りがゼンマイ全巻きで280度出ており気分がいいです!

    時計のコンディションを見極める要素として、よく精度と姿勢差があげられます。
    これらが良好であれば勿論それに越したことはないのですが、姿勢差よりも先に私がチェックするのは、姿勢を変えた場合の振り角です。

    ゼンマイ半巻きで時計の姿勢を変えて、振り角が50〜60度低下するようであれば、何かしらの異常を内包したままであると考えられます。
    振り角が落ちると、大抵の場合精度も大きく変化しますので、これが姿勢差となって現れることがほとんどです。

    しかし、経験上姿勢差が20秒までで振り角の減少が30度以内である場合、使用に伴って様々な方向に位置することで姿勢差は相殺され、大きな精度不良とならない事が多いのです。

    あまり無いことですが、姿勢差は少なくとも振り角の顕著な減少が見られる場合、しばらく使用するうちに、大幅な精度の乱れや停止となる可能性が大きいのです。

    現代の歩度測定器では、数値によって姿勢差がすぐにわかるようになっていますが、その数値だけを頼りにして、”姿勢差はテンプの重量バランスの狂い”だと短絡的に判断してしまい、すぐにテンプのチラネジやテンワそのものを削ったりする修理者が多すぎると思います。

    姿勢差は天芯のアガキ、キズや磨耗、アンクルの剣先&クワ型と振り座/振り石との関係、歯車のアガキなど以外にも、ここではとても紹介しきれないほど様々な要因で発生します。

    それらの要因をチェックする前にテンプのバランスを調整するのは避けましょう、ということを、声を大にし言いたいのです。

    過去に不適切な修理をされた形跡が無く、その時計が新品であった時そのままのテンプであるとしたら、数多くの経験と充実した設備を持つメーカーによってバランス調整されたテンプなのですよ。

    そのテンプのチラネジやテンワを削ったりするのは、極めて慎重な見定めの後に行わないといけません。
    削ってしまうと、元に戻すことは大変な困難を伴うのですから・・・

    デイトジャスト Ref.1601 修理

    惨い状態だった文字盤のクリアを剥離、風防を交換してサビと汚れも落とし、外観もかなりスッキリしました。

    これで長きに渡った初期型デイトジャスト編もラストとなりますが、全ての作業を解説できたわけではありません。
    全ての作業を事細かに紹介すると、この5倍〜10倍の内容になると思います。
    雑誌や欧米の書籍でも解説されている一般的な作業内容は省きましたので、今後その辺りは単発で記事にしてゆきたいと思っています。

    cal.1560 オーバーホール

    最後に、この初期型デイトジャストの特徴でもあるローターと切換車について述べさせてもらいます。
    曲線で構成されたデザインのローター、赤いルビー処理のされていない切換車などは、アンティーク時計の名残ともいえる優美さを留めていますが、ローターは隙間の多い、無機質なデザインに変更された代わりに、たわむことでローター芯と穴石を保護する耐衝撃性を、色調が落ち着いたメッキの切換車は、表面を赤くルビーコートすることで、比類無き耐磨耗性を得たのです。

    これらの改良点は、現行品のcal.3135にも受け継がれています。
    「’60年代までのアンティーク時計は現行品より防水性以外の面で全てにおいて優れており、コストダウンによってその良い面が失われた」と雑誌でおっしゃっている方がおられますが、どちらの処理も工程が増え、コストは増大しますが、耐久性の面において確実にプラスとなります。

    例外が存在することも知っていただきたいと思い、ここに記させていただきました。